教育普及研究部会

日時
2020年12月15日(火)
13:30~17:25
場所
ウェブ会議システムZoomによるオンライン開催

第54回教育普及研究部会会合報告

 2020年12月15日、教育普及研究部会(以下、ERG)の会合を初めてオンラインで開催した。本稿では、オンライン開催に至る経緯と会合の内容、参加者の反応などについて報告したい。
 
 ERGでは年に2回の会合を開催し、外部専門家による講演や教育普及活動事例の紹介、部会員同士のディスカッションなどを行っている。全国から部会員が集まって実施される会合は、部会員にとって貴重な研修と情報収集の機会であり、ERGの活動の要とも言える。しかし、2020年に起きた新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、施設の臨時休館やイベントの中止など、美術館・博物館の機能を一時停止させるほどの影響を及ぼし、ERGも今年度の活動を始動できぬまま、計画を一から立て直さなければならなくなった。感染拡大収束の糸口が見えぬ中、従来のように参加者が一つの会場に参集する会合は実施できない。安全に「集まる」場をどのように作ればよいのか、ERG幹事2名で協議を重ねてたどり着いたのが、オンライン開催という選択肢だった。
 コロナ禍での会合の実現に向け、まずは部会員を対象に、オンライン会合に関するウェブアンケート調査を実施した(回答期間:2020年7月27日~8月9日)。59件の回答があり、会合をオンラインで開催することについては、「賛成」50名、「反対」1名、「どちらでもない」8名という結果だった。
 「賛成」を選んだ理由としては、「遠方への移動をしなくてもよいので参加しやすい」、「旅費や出張申請などを気にせずに参加できる」、「今こそ部会員同士がコミュニケーションをとる必要がある」などがあった。「賛成」以外を選んだ回答者からは、「オンライン会議に参加するための環境がない人がいるのではないか」、「対面時と比べて自由な発言がしにくくなる」といった意見があった。また、職場または自宅にオンライン会合に参加できる環境があるかを尋ねた設問には、59名中58名が「ある」と答え、オンライン会議に実際に参加した経験がある人も50名と多数であった。
  
 このウェブアンケート調査を踏まえ、令和2年度第1回(通算第54回)の会合を、ウェブ会議システムZoomを使用してオンラインで開催することを決定した。11月より参加者募集を開始したところ、部会員とオブザーバーあわせて100名もの申し込みがあった。これは過去の会合参加者数を大きく上回る人数で、会合に対する期待値の高さがうかがえるとともに、参集型の会合よりも「参加しやすい」ことが数字で示されることとなった。また、オンライン開催をきっかけに、参加申し込みをメールに一本化する、参加者に配布していた名簿等の資料はメールで送付する、参加者アンケートはオンラインフォームから回答する方法に変更するなど、会合の運営面でもオンライン化とデジタル化が促進されたことも言い添えておきたい。
 
 会合開催当日の12月15日は、約100名が参加する会合を安定した状態で配信するため、通信設備と環境が整った国立新美術館を配信拠点とし、幹事2名がホストとなってZoomミーティングを開催した。オンライン会議やZoomの操作に不慣れな参加者もいたが、入室時の混乱やトラブルはなく、会合は予定時間通りにスタートした。パソコンの25分割された画面に参加者の顔が並ぶ様子は、新しい様式のERGの活動が始まることを予感させた。
 会合のテーマは、事前アンケートで得票の多かった「withコロナ時代の教育普及活動の在り方」とした。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、多くの美術館で、従来のように美術館に人が来て、集まり、交流する教育普及プログラムが実施できない現状において、どのように教育普及活動を絶やさずに継続していくのかは、ERGメンバーにとって喫緊かつ最大の課題である。今回の会合では、事前に部会員より発表者を募り、コロナ禍において実施した教育普及プログラム関する「事例発表」と「オンライン・プログラム紹介」を行った。
 「事例発表」では、まず東京都美術館の稲庭彩和子氏が「Museum Start あいうえの 学校プログラム」と題して、人間の創造性や文化とSDGsの実現との関わりをテーマにした、高校での連続授業の実践について報告した。8月から10月にかけて、高校1年生107名を対象に3回実施された授業で、1回目は「観察・鑑賞する」ことを探求的に学ぶオンライン講義と鑑賞ワークショップ、2回目はSDGsを通して「私たちがつくる幸せ(Wellbeing)な未来」について考えるオンライン講座、3回目は生徒たちが都内のミュージアムを実際に訪れ、「100年後に遺したいもの・伝えたいものは何か」を考えながら観察・鑑賞する活動が行われた。オンラインの授業と実地での活動を効果的に組み合わせ、昨今国際的に関心が高まっているSDGsをテーマにした、まさに時事を掴んだ事例発表だった。続いて、東京国立近代美術館の一條彰子氏と細谷美宇氏が、ボランティアのガイドスタッフによる、オンラインの対話鑑賞プログラムの実施に至る道のりを、「MOMATガイドスタッフ40名、オンラインに挑戦する」と題して、リズミカルな掛け合いを交えながら発表した。コロナ禍以前のようにボランティアが集まったり、来館者と接したりする活動が行えず、多くの美術館・博物館でボランティア活動を休止や縮小せざるを得ない状況となっている。MOMATガイドスタッフが携わっていた展示室での所蔵品ガイドも2月終わりから休止となったが、スタッフにアンケート調査を行った後、6月からオンライン例会で協議を重ねて、オンラインで所蔵品ガイドを行う方法の検討や準備を少しずつ進めていき、10月下旬から「オンライン対話鑑賞」と「動画配信」のプログラムでガイドスタッフの有志が活動を再開した。実現するには障壁が多そうに思われるボランティアのオンライン活動だが、細かくステップを踏み、一人一人の声を拾いながら準備を進めることで、ボランティア自身が望む形での活動が可能となること、また綿密な館内調整が肝要であることなどが示された発表だった。
 続く「オンライン・プログラム紹介」では、「ヨコハマトリエンナーレ 2020 オンラインガイドココがみどころ!」(横浜美術館)、「東京都写真美術館スクールプログラム 驚き盤制作」(東京都写真美術館)、「ファミリーDAY 2020」(福岡市美術館)、「アートスタジオ☆WEB」(府中市美術館)、「アトリエでつくろうWEB」・「上田市立美術館ぬりえすごろく」(上田市立美術館)、「鑑賞素材BOX」(独立行政法人国立美術館)、「ボローニャ国際絵本原画展 オンラインイベント」(板橋区立美術館)の7件の発表があった。いずれの発表でも、プログラムを実施する目的の洗い出しから、課題解決の工夫、実施したことによる成果、更なる展開や継続していくための課題などが教育普及担当者の視点から語られ、参加者が自館の活動を前に進めていくうえで非常に参考になり、また、励みになる発表であった。
 全ての発表が終わった後、休憩を挟み、Zoomの「ブレイクアウトルーム」機能を用いて参加者を10グループに分け、ディスカッションを行った。各グループでは、(1)前半の発表についての感想、(2)コロナ禍における自館の教育普及活動、(3)withコロナ時代の教育普及活動の在り方が共通議題として話し合われた。発表時間が大幅に延びたため、ディスカッションに割ける時間が少なくなり、ほとんどのグループで各議題を掘り下げて話すことができなかったのは残念だが、ウェブ会議システムの機能を有効に使って、ERGが重視する参加者同士の交流の場をオンライン方式の会合でも設けることができたのは、今回の会合で得られた成果の一つである。
 グループ・ディスカッション後は、全員が一つのミーティングルームに再度集合し、各グループの代表者が討議の内容を発表した。「距離と空間はオンラインで越えられる」、「社会とのつながりを持つことが重要」、「これまでの蓄積があるからオンラインに展開できる、逆にこれまでアクセスできなかった人が参加できる」、「将来的にリアルとオンラインをどう組み合わせていくか」、「館のミッションとともに考える必要がある」といったキーワードや課題が全体に共有され、ERGの初のオンライン会合は全プログラムを終了した。閉会挨拶では、今年度よりERGの部会長に着任された長崎県美術館の小坂智子館長より、「やりにくい時代ではあるけれども、オンラインもオフもリアルも、プログラムをやり続けていくことで、社会と人のつながりを作っていく場として美術館が機能していくのだという思いを新たにしました。」と、コメントをいただいた。
     

 会合終了後、会合の録画をインターネット上で限定公開して、ERG部会員が視聴できるようにした。会合中のZoomの画面を録画し、動画データを公開することで、会合に参加できなかったメンバーにも情報共有ができるのは、オンライン開催の利点の一つと言えるだろう。今回、会合の準備から実施を通じて、オンライン開催のメリットとデメリットを様々学ぶことができた。メリットとして特筆しておきたいのは、アンケートの回答にも多かった、「どこからでも移動時間を気にせずに参加できる」ということだ。出張中、あるいは育児休業中など、従来の参集型の会合であれば参加を諦めていたメンバーも、オンラインだからこそ参加することができた。だが、「参加しやすくなった」と感じるメンバーが多くいる一方で、通信環境などが整わず、参加を見合わせた人もいただろう。会合参加の機会を平等に提供できるよう、部会員から意見を聞きながら、開催方式の改善を図っていきたい。
(報告者:教育普及研究部会幹事/国立新美術館 吉澤菜摘))

出席者:101名

部会員84名、オブザーバー15名、事務局2名/92端末

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