地域美術研究部会過去の活動

日時
2023年5月26日(金)
場所
名古屋市美術館
講堂

第15回地域美術研究部会会合報告

 第15回会合は、名古屋市美術館を会場に開催した。午前中は愛知県美術館および名古屋市美術館のご厚意で両館の展示を見学し、午後、定刻で部会合をスタートした。今回は3名の方に登壇いただいた。
 はじめに、深谷克典氏(名古屋市美術館)による発表「名古屋市美術館のコレクションについて」は、開館前から現在までの作品収集のあゆみについての報告。83年、開館に向けての収集活動が始まり愛知、岐阜、三重の伊勢湾を囲む地域を対象としたが、85年には収集範囲を拡大。地域の作家だけでなく国内外で活動し日本近現代美術に影響を与えた作家も対象とし、北川民次、荒川修作、河原温らの体系的な収集を始める。開館1年前の87年、同館の収集方針として郷土の美術、エコール・ド・パリ、メキシコ・ルネサンス、現代の美術の4本の柱が決定し今日まで引き継がれている。また、88年4月の開館から30年間に及ぶ購入予算から見た収集活動についても詳細な資料も提示しながら報告をいただいた。
 続いて森本陽香氏(名古屋市美術館)の「山田光春のガラス絵について」では、所蔵作家の山田光春のガラス絵について研究発表をいただいた。山田は美術教育者、そして『瑛九 評伝と作品』(1976年)の著者としても知られる。発表では1930年代のガラス絵に焦点をあて、1934年、赴任先での瑛九との出会いからはじまる交流と画業への影響、同時期の長谷川三郎のガラス絵とも比較し、山田の30年代のガラス絵におけるシュルレアリスム的表現や、その独自性について発表された。
 最後に、石崎尚氏(愛知県美術館)の発表「(インター)ローカルなハブとしての文化会館」では、愛知県美術館の前身・愛知県文化会館(1955~92年)が愛知のアートシーンにもたらしたものについて検証。ゼロ次元の調査をきっかけに、同文化会館が展覧会の開催のみならず、貸会場として保守から前衛まで様々なグループの発表の場として機能したことで、ゼロ次元など愛知の前衛美術の発信の場となったことを突き止められた。同文化会館に関する調査は2017年の改修工事、「アイチアートクロニクル1919-2019」(2019年)、そして2020年のコロナ禍でもたゆまず進められブラッシュアップしてきたとのこと。また、他県での文化会館の役割を検証した事例として福岡県立美術館、香川県ミュージアムの企画展を紹介。全国を横断する地域研究として田中修二氏の県展研究についても言及された。
 石崎氏の発表の後半、「地域と地域を繋ぐ地域美術史は可能か?」というトピックで述べられた、「他の地域での類似例と比較検証することで、共通してみられる地方ならではの美術のあり方が見出せれば面白いのではないか」という意見については、現在製作を検討している当部会の記録集で参考にしたいと思いつつ拝聴した。
(北九州市立美術館 重松知美)

出席者:24名(部会員10名、オブザーバー11名、発表者3名)

部会長:速水豊(三重県立美術館長)
幹事:藤崎綾(広島県立美術館)
幹事:増渕鏡子(福島県立美術館)
幹事:迫内祐司(小杉放菴記念日光美術館)
幹事:重松知美(北九州市立美術館)
弘中智子(板橋区立美術館)
一柳友子(香川県立ミュージアム・東山魁夷せとうち美術館)
西本匡伸(福岡県立美術館)
林田龍太(熊本県立美術館)
山梨俊夫(全国美術館会議事務局長)
オブザーバー:
濱﨑礼二(宮城県美術館)
塩津青夏(愛知県美術館)
恒川明美(一宮市三岸節子記念美術館)
稲葉隆司(名古屋市美術館)
井口智子(名古屋市美術館)
保崎裕徳(名古屋市美術館)
清家三智(名古屋市美術館)
近藤将人(名古屋市美術館)
勝田琴絵(名古屋市美術館)
久保田舞美(名古屋市美術館)
長尾萌佳(坂本善三美術館)
発表者:
深谷克典(名古屋市美術館)
森本陽香(名古屋市美術館)
石崎 尚(愛知県美術館)
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