地域美術研究部会過去の活動

日時
2021年10月27日(水)
場所
オンライン開催

第12回地域美術研究部会会合報告

 第12回部会会合は、当初2021年6月4日に京都で開催されるはずだった総会にあわせ、翌日に同地での開催を計画していたが、コロナウィルス感染拡大により総会自体が東京及びオンラインでの開催に変更となったため、部会会合も止むなく仕切り直しとなった。その後、幹事間で協議した結果、本年度の会合はオンラインのみで開催することに決定。本来京都での発表をお願いしていた森光彦氏(京都市京セラ美術館学芸員)に改めて発表を依頼の上、同年10月27日に ZOOMでの実施となった。
 午前の部は、10時10分開始。速水豊部会長挨拶後、森氏に「近代京都における、学校を中心とした地域社会と美術作品について」のテーマで発表していただいた。
 森氏は現職に異動前は京都市学校歴史博物館に勤務されていた。同館は京都市内の小・中学校に多数残された上村松園、菊池契月、梅原龍三郎、安井曾太郎といった著名作家の作品も含む美術工芸品や教育資料を収集・保存・展示する施設であるが、本発表は、そもそもなぜ京都の小・中学校には多くの美術工芸品があるのか、という疑問に答えるものであった。
 京都は、明治政府による学制実施(1872年)に先がけ、1869年に本邦初の学区制小学校64校を開校する。各学区は室町時代の「町組」という自治組織を起源とする「番組」を単位とするが、番組は町組が北西から順に番号付けされたもので、原則各番組に1校ずつ設置されていった。番組小学校は明治政府ではなく、各学区民が建設資金・運営資金を出しあって開設・運営されたもので、学区民たちは「自分たちの学校」という意識を強く持っていた。加えて、各校には火見櫓や鼓楼が設けられ、それが学区のランドマークとして地域の中心になり、小学校は授業をするだけでなく、何かあれば学区民たちが集まる場になっていた。その結果、自治組織の象徴になった各番組小学校には、他の地域に負けない立派な小学校にするため、高価な楽器や実験器具、そして美術品が寄贈されていくことになる。
 美術品については、①画家が母校や近所の小学校に寄贈したもの、②学区民が寄贈したもの、③組内の画家に依頼制作されたもの、④小学校として移築される前から建物に付随していたもの、の4パターンに分類できる。小学校は必ずしも新築ではなく、使われなくなった寺院や邸宅が活用されることもあったため、その場合、建物内に元々あった古画や調度品がそのまま小学校の所蔵となって今に伝わっている、というのが④となる。
 画題としては全体的に花鳥画や山水画が多いが、半数ほどを占める歴史画に共通する特徴として、教育的主題の絵や、子どもたちの健康や勉学の成就を願った吉祥的画題の絵が多いということが挙げられる。例えば、「忠節」を意味する中村大三郎《菅原道真》(成徳中学校旧蔵)、「立志」を意味する植中直斎《豊臣秀吉図》(貞教小学校旧蔵)など、国語や修身、歴史の教科書から題材が採られた作品が散見され、特に1882年に公立学校に配布された勅撰修身書『幼学綱要』が大きな影響力を持っていたと考えられる。
 最後に、100年を越えて学区民によって伝えられてきたこれらの美術作品の受け継ぎ方として、美術館・博物館も地域住民と協力しながら文化財として保存を行っていく必要があるとまとめられた後、活発な質疑応答がなされた。
 午後の部は1時15分から部会員のみで、年度末の研修会、部会としての今後の方向性について話し合いがなされ、両方を兼ねた「なぜいま、地域美術を研究するのか」というテーマで進めていくことになった
(小杉放菴記念日光美術館 迫内祐司)

出席者:16名

部会長:速水 豊(三重県立美術館長)
幹 事:泰井 良(静岡県立美術館) 
幹 事:藤崎 綾(広島県立美術館)
幹 事:増渕鏡子(福島県立美術館)
幹 事:迫内祐司(小杉放菴記念日光美術館)
幹 事:重松知美(北九州市立美術館)
折井貴恵(川越市立美術館)
奥村一郎(和歌山県立近代美術館)
藤本真名美(和歌山県立近代美術館)
廣瀬就久(岡山県立美術館)
江川佳秀(徳島県立近代美術館)
川浪千鶴(個人会員)
発表者:森 光彦(京都市京セラ美術館)
山梨俊夫(全国美術館会議事務局)
小林豊子(全国美術館会議事務局)
大越久子(全国美術館会議事務局)午後の部
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