第57回教育普及研究部会会合報告
2022年3月22日、教育普及研究部会は「ミュージアムにおけるSDGs」をテーマに、第57回会合をオンラインで開催した。ここでは、会合の目的や講演会の内容及び会員同士の意見交換について報告したい。
2019年のICOM京都大会が、sustainability(持続可能性)、diversity(多様性)、inclusion(包摂性)といったキーワードを掲げ、「Museums as Cultural Hubs: The Future of Tradition(文化をつなぐミュージアム―伝統を未来へ―)」を全体テーマに開催されたことは記憶に新しい。多様性や社会的包摂については、当部会でもたびたびディスカッションしてきたが、持続可能性や、SDGsそのものについて話し合う機会はほとんどなかった。SDGsへの興味関心がなかったわけではない。SDGsへの取り組みは、各館のミッションステートメントとも関わってくることであり、教育普及活動に限らず、美術館活動全体を考えることにもつながるため、いちど会合のテーマにしてはどうか、という提案は以前からあった。今回は、その提案を受けて、日本科学未来館のプラットフォーム運営室長である谷村優太氏をお招きし、科学館におけるSDGsについてご講演いただくとともに、美術館におけるSDGsについて会員同士で意見交換を行った。
谷村優太氏は、日本科学未来館のプラットフォーム運営室室長代理を務めるとともに、全国科学館連携協議会の前事務局長として、日本のみならず世界の科学館におけるSDGsを推進した立役者でもある。講演の第一部では、〈国内外科学館ネットワークの取り組み〉として、2017年に日本科学未来館で開催された「世界科学館サミット(SCWS)2017」における「東京プロトコール」採択や、世界科学館デーへの参画、さらには全国科学館連携協議会での取り組みについて紹介いただいた。ネットワークを生かしたシチズンサイエンスの普及や、国内外への情報発信は、いたってシンプルでありながら、SDGsの達成に大きく寄与するものであり、既存のネットワークをどう生かしていくかが美術館にも問われた。
講演の第二部では〈日本科学未来館の取り組み〉を紹介いただいた。ワークショップのオープンコンテンツ化や、既存の活動とSDGsとのつながりを可視化し職員同士で共有したり、積極的に情報発信していくなど、SDGs=達成すべきゴールと身構えるのではなく、既に達成できていることを再発見・再評価し、それを表明していく重要性を改めて確認することができた。また、質疑応答の中で、取り組みを進めるにあたって、それ自体が持続可能であることや、活動の意義を明確にすることで取り組みの必然性と説得力がさらに高まるといったお話を伺うことができた。
その後、谷村氏の講演を受けて、「美術館ネットワークでなにができるのか?」「自身の館ではどんなことができるのか?」をテーマに、少人数での意見交換を行った(Zoomのブレイクアウトルームを利用)。既に取り組んでいる各館の事例紹介から、以前からの課題、提案など、さまざまな意見が交わされた。そもそも美術館の活動自体がSDGsにつながるのではないか、美術館が関わることによって、SDGsの達成をより平坦に推進することができるのではないか、といった前向きな発言のいっぽうで、こうした社会の動向と合致した活動をわざわざアピールすることへの躊躇や、こうした活動の評価が高まることへの懸念も出ていた。実は、SDGsが謳われる20年ほど前から、部会内では「持続可能性」という文言が提言されていたという話を聞き、私も含めて会員の多くが、現在明示されている課題が昔から存在していたという、少し考えれば当たり前の事実に改めて気づく場面もあった。
見えない差異を可視化することがアートの力であるならば、SDGsは、私たちができることを改めて考え、活動していくための一つのきっかけに過ぎないのではないだろうか。社会の中で美術館の活動をより広く深く推進していくためは、その活動をより多くの人へ発信し、賛同を得て、発展させていくネットワークの構築が重要であり、全国美術館会議の更なるネットワーク強化に期待したい。
2019年のICOM京都大会が、sustainability(持続可能性)、diversity(多様性)、inclusion(包摂性)といったキーワードを掲げ、「Museums as Cultural Hubs: The Future of Tradition(文化をつなぐミュージアム―伝統を未来へ―)」を全体テーマに開催されたことは記憶に新しい。多様性や社会的包摂については、当部会でもたびたびディスカッションしてきたが、持続可能性や、SDGsそのものについて話し合う機会はほとんどなかった。SDGsへの興味関心がなかったわけではない。SDGsへの取り組みは、各館のミッションステートメントとも関わってくることであり、教育普及活動に限らず、美術館活動全体を考えることにもつながるため、いちど会合のテーマにしてはどうか、という提案は以前からあった。今回は、その提案を受けて、日本科学未来館のプラットフォーム運営室長である谷村優太氏をお招きし、科学館におけるSDGsについてご講演いただくとともに、美術館におけるSDGsについて会員同士で意見交換を行った。
谷村優太氏は、日本科学未来館のプラットフォーム運営室室長代理を務めるとともに、全国科学館連携協議会の前事務局長として、日本のみならず世界の科学館におけるSDGsを推進した立役者でもある。講演の第一部では、〈国内外科学館ネットワークの取り組み〉として、2017年に日本科学未来館で開催された「世界科学館サミット(SCWS)2017」における「東京プロトコール」採択や、世界科学館デーへの参画、さらには全国科学館連携協議会での取り組みについて紹介いただいた。ネットワークを生かしたシチズンサイエンスの普及や、国内外への情報発信は、いたってシンプルでありながら、SDGsの達成に大きく寄与するものであり、既存のネットワークをどう生かしていくかが美術館にも問われた。
講演の第二部では〈日本科学未来館の取り組み〉を紹介いただいた。ワークショップのオープンコンテンツ化や、既存の活動とSDGsとのつながりを可視化し職員同士で共有したり、積極的に情報発信していくなど、SDGs=達成すべきゴールと身構えるのではなく、既に達成できていることを再発見・再評価し、それを表明していく重要性を改めて確認することができた。また、質疑応答の中で、取り組みを進めるにあたって、それ自体が持続可能であることや、活動の意義を明確にすることで取り組みの必然性と説得力がさらに高まるといったお話を伺うことができた。
その後、谷村氏の講演を受けて、「美術館ネットワークでなにができるのか?」「自身の館ではどんなことができるのか?」をテーマに、少人数での意見交換を行った(Zoomのブレイクアウトルームを利用)。既に取り組んでいる各館の事例紹介から、以前からの課題、提案など、さまざまな意見が交わされた。そもそも美術館の活動自体がSDGsにつながるのではないか、美術館が関わることによって、SDGsの達成をより平坦に推進することができるのではないか、といった前向きな発言のいっぽうで、こうした社会の動向と合致した活動をわざわざアピールすることへの躊躇や、こうした活動の評価が高まることへの懸念も出ていた。実は、SDGsが謳われる20年ほど前から、部会内では「持続可能性」という文言が提言されていたという話を聞き、私も含めて会員の多くが、現在明示されている課題が昔から存在していたという、少し考えれば当たり前の事実に改めて気づく場面もあった。
見えない差異を可視化することがアートの力であるならば、SDGsは、私たちができることを改めて考え、活動していくための一つのきっかけに過ぎないのではないだろうか。社会の中で美術館の活動をより広く深く推進していくためは、その活動をより多くの人へ発信し、賛同を得て、発展させていくネットワークの構築が重要であり、全国美術館会議の更なるネットワーク強化に期待したい。
(報告者:教育普及研究部会幹事/横須賀美術館 中村貴絵)
出席者:45名
部会員43名、オブザーバー1名、事務局1名