第41回教育普及研究部会会合報告
2012年度2回目の会合は、松本市美術館を会場に、市民活動と文化施設の関わりについて多角的な視点から考える内容となった。
2日目は、松本市内で実際に市民の学習支援に携わっている公民館主事の方々も会合に加わった。最初に当研究部会オブザーバーでもある東京大学の新藤浩伸氏から、専門の研究分野である社会教育と文化行政の歴史について、制度的な視点を交えながら講義を受けた。
話題提供を受けてのフリートークでは、民芸品と産業とのかかわり、文化として伝統工芸をどう守るかという問題、団体利用を基本としている公民館を個人が利用するときのさまざまな壁などが課題として上げられた。また市民からみすず細工のような民芸品を美術館で展示したいという申し出があったとき各自が勤務する美術館でどのような対応が可能か、設置母体の異なるそれぞれの美術館において地域とは何か、具体的にどこまでを指すのだろうかとの問いかけがあった。現在の日本の美術館が収集、展示の対象としている資料や文化の幅はあまりにも狭すぎるのではないかといった、美術館の運営理念に関わる意見も出された。最後に「地域の大小はあるけれど、館の運営資金である税金を払っているのは地域住民。美術館に来る人は恩恵をこうむるからいいとして、来ない人にも払っている税金分ぐらいは広報や何らかの形で還元しようと考えればいいのでは」と村田氏から述べられたアドバイスは、ある意味で非常に分かりやすく具体的な提案だった。
今回の会合を長野県・松本市で開催することにしたのは、昨年度の学芸員研修会「社会教育・生涯学習の歴史と実践―美術館の教育普及を考えるために」を企画・実施した際、実践報告をしてくださった手塚英男氏(あがたの森文化会館初代館長)の話から、社会教育が盛んな松本市において博物館・美術館がどのように利用されているのか知りたいと考えたからである。同じ社会教育施設である公民館の活動から学び、美術館における教育普及活動の見直しを図るねらいもあった。とはいえ、松本市でも公民館、博物館、美術館の人間が一堂に会することは今回が初めてで、貴重な機会を作ってもらったとお礼の言葉をいただく場面もあった。
他機関や市民との連携は決して生易しいものではないだろう。公民館で行われているような地域社会をより良くするための学習活動と、美術館が行う一部の啓蒙的な教育活動との間には相容れない溝があるかもしれない。しかし、社会における自館の役割を認識するとともに、館の置かれた地域を知り、そこに暮らす人々を知り、コミュニケーションをとっていくことから一緒にできる活動を少しずつ見出していけばよいのではないだろうか。教育普及活動を企画する中で、当たり前のように言われながら定義の曖昧な“地域”について具体的に考えるヒントを得られた会合だったと思う。
他機関や市民との連携は決して生易しいものではないだろう。公民館で行われているような地域社会をより良くするための学習活動と、美術館が行う一部の啓蒙的な教育活動との間には相容れない溝があるかもしれない。しかし、社会における自館の役割を認識するとともに、館の置かれた地域を知り、そこに暮らす人々を知り、コミュニケーションをとっていくことから一緒にできる活動を少しずつ見出していけばよいのではないだろうか。教育普及活動を企画する中で、当たり前のように言われながら定義の曖昧な“地域”について具体的に考えるヒントを得られた会合だったと思う。
(報告者 名古屋市美術館 清家三智)
出席者
会員 17名
オブザーバー 8名
オブザーバー 8名