地域美術研究部会過去の活動

日時
2024年2月21日(水) ~2024年2月22日(木)
場所
上田市立美術館(サントミューゼ)、東御市梅野記念絵画館・ふれあい館

第16回地域美術研究部会会合報告

 第16回会合は、久しぶりの2日間開催となった。上田市立美術館と東御市梅野記念絵画館の同時開催となる「上田クロニクル(年代記)―上田・小県洋画史100年の系譜」展を両日で見学した。
 1日目は午前中から上田市立美術館での展覧会を見学、午後から同館市民アトリエ・ギャラリーを会場に発表と討議を行った。速水部会長(三重県立美術館長)の挨拶に続き、発表は日向大季氏(東御市梅野記念絵画館)、小笠原正氏(上田市立美術館)のお二人にご登壇いただいた。
 日向氏には展覧会趣旨のご発表をいただいた。
 山本鼎の創立した農民美術研究所(1916年)に始まり、倉田白羊の指導するノア会(1923年)、戦争を挟んで岡鹿之助の指導する鹿苑会(1948年)、春陽会東北信研究会(1962年)に至る、上田周辺の美術運動を丁寧にご説明いただいた。本展開催のきっかけとなった、上田市の画材店「遊美」の店主とのやり取りや、中心作家が所属する春陽会での人間関係などを織り交ぜた内容は、現在まで連なる、地域をめぐる作家の系譜がうかがい知れて興味深いものであった。
 続いて小笠原氏の発表では、上田市の重要な作家である山本鼎を中心に取り上げられた。山本の農民美術研究所に発した美術教育の精神が、その後市民によって山本鼎記念館の設立運動にひきつがれ、最終的に、平成26年にオープンした上田市立美術館のミッションとして掲げられた経緯を説明いただいた。地域文化から発した精神的支柱に沿いつつ、各時代に応じた事業を展開、地域の子供たちに親しまれ続ける希有な公共施設の例といえよう。日向氏、小笠原氏による多角的な共同研究が、2館同時開催の展覧会として結実した、意欲的な企画であった。
 質疑応答時間では、地域内の公共施設の片隅から地元洋画家の作品を発掘したエピソードや、農民美術の担い手であった女性作家についての話題など、より発表内容を掘り下げる討議がなされた。長野県立美術館からも多数の参加者があり、地域美術史に関心の高い土地柄がうかがえた。
 2日目はマイクロバスで上田駅前から東御市に移動、梅野記念絵画館会場の「上田クロニクル」展を見学するとともに、同館の日向氏、佐野悠斗氏に梅野隆コレクションの解説、案内をいただいた。梅野氏は銀座で画商を営んでおり、その旧蔵作品は全国の美術館に収蔵されている。展示室の一角に公開されている画廊「美術研究藝林」時代の資料を熱心に見入る姿も見られた。
 なお、地域美術研究部会は2024年に発足して10年となり、その間各地域の美術館を部会合の会場に、有意義な発表や討議が重ねられている。会員館に情報共有をすべく、これまでの発表内容を事例集としてまとめる企画を進めている。編集スケジュールや公開の方針についても、部会員間で話し合いが持たれた。
(福島県立美術館 増渕鏡子)

出席者:25名(部会員10名、オブザーバー12名、事務局1名、発表者2名)

部会長:速水 豊(三重県立美術館長)
幹事:藤崎 綾(広島県立美術館)
幹事:増渕鏡子(福島県立美術館)
幹事:迫内祐司(小杉放菴記念日光美術館)
幹事:重松知美(北九州市立美術館)
奥村一郎(和歌山県立近代美術館)
一柳友子(香川県立ミュージアム)
西本匡伸(福岡県立美術館)
高山百合(福岡県立美術館)
松久保修平(長崎県美術館)
オブザーバー:
岡村春香(川口市立アートギャラリーアトリア)
藤森梨衣(たましん美術館)
山嵜敦子(上田市立美術館(サントミューゼ))
岡田知惠(上田市立美術館(サントミューゼ))
竹下 悠(上田市立美術館(サントミューゼ))
大塚菜々美(上田市立美術館(サントミューゼ))
古家満葉(長野県立美術館)
鈴木幸野(長野県立美術館)
池田淳史(長野県立美術館)
茂原奈保子(長野県立美術館)
北泉剛史(長野県立美術館)
佐野悠斗(梅野記念絵画館・ふれあい館)
小林豊子(全国美術館会議事務局)
発表者:
小笠原正(上田市立美術館)
日向大季(梅野記念絵画館・ふれあい館)
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