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学芸員聞き取り調査について:回答まとめ(PDF:1.0MB

美術館運営研究部会調査報告・前説

現場の声を聴く~学芸員聞き取り調査について

美術館運営研究部会 幹事
安田篤生(高知県立美術館)

【1】調査の背景

 制定後70年余りが経過した博物館法について、2022年その一部を改正する法律案が可決、制定され、2023年4月から施行された。その施行に先立って日本博物館協会、全国美術館会議そして私立美術館会議がそれぞれ個別に、法改正に伴う博物館制度充実に向けた要望書(注1)を文部科学大臣へ提出したことは皆さまご存じであろう。
 法案提出以前、文化庁文化審議会内の博物館部会(注2)及びその下部組織である「法制度の在り方に関するワーキンググループ」(注3)では「博物館法制度の今後の在り方」を繰り返し議論し、まとめられた「答申」(注4)が法改正の土台となっている。ワーキンググループでは館種・分野別の博物館・美術館関係団体へのヒアリングも実施し、ここには全国美術館会議も参加した(注5)。
 しかしながら、この「答申」に関する全国美術館会議事務局からの報告(注6)にもある通り、令和の法改正で中心となったのは博物館登録制度の見直しが主であった。「答申」へ至る検討・議論の中では、学芸員制度の見直しも大きな議題ではあったものの、結論めいたものをまとめるに至らず、今後の課題として積み残しのまま法改正が行われたのであった。
しかし、現在、専門職としての学芸員の位置づけ、例えば、“雑芸員”から専門化・分業化へ、あるいは学芸員以外の専門職配置の必要性、さらには館の規模=職員数の制約や雇用形態(正規・非正規、有期雇用)の問題もある。学芸員が働く現場の実状が複雑で課題をいくつも抱えている中、学芸員制度を今後見直すとすればどのような方向性がふさわしいのであろうか。そのためにも、現場の声を拾い上げていくことは重要であるといえる。
 そこで美術館運営研究部会としては、学芸員の現場における課題や今後望まれることについての調査を行うこととした。
 なお、前述の文化庁文化審議会内の博物館部会では、第5期(令和5年度)(注7)において「学芸員の在り方について」が継続的に議題として挙げられた。今後、学芸員制度の見直しに向けた議論と検討が深まっていくことが期待される。このような状況において、現場の学芸員の声を伝える今回の調査も意義があったのではないかと考えている。

(注1)全国美術館会議の要望書
 https://www.zenbi.jp/files/2022/youbou0203.pdf
(注2)文科大臣の諮問により、博物館法制度の今後の在り方については、主に第3期博物館部会(令和3年度)で検討された
 https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan03/index.html
(注3)法制度の在り方に関するワーキンググループの活動はこちらで参照できる
 https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hoseido_working/index.html
(注4)「博物館法制度の今後の在り方について(答申)」
 https://www.zenbi.jp/files/2021/bun1227.pdf
(注5)「法制度の在り方に関するワーキンググループ」でのヒアリングにおいて全国美術館会議が提出した資料
 https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hoseido_working/06/pdf/93309001_02.pdf
(注6)「博物館法制度の今後の在り方について(答申)」に関する全国美術館会議事務局からの報告
 https://www.zenbi.jp/data_list.php?g=3&d=743
(注7)第5期博物館部会(令和5年度)の内容についてはこちらで参照できる
 https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan05/index.html

 
 

【2】調査について

美術館運営研究部会では部会会合ならびにメーリングリストでの意見交換・協議を経て、2023年の春に以下の質問項目をまとめた。
 
Q 1. 博物館の専門的職員としての学芸員の専門性はどうあるべきと考えるか
 → 上の「あるべき」に対して現状はどうか
Q 2. 学芸員資格制度は必要か
 →「必要」であればその理由
 →「必要でない」のであればその理由
Q 3. 博物館の専門的職員は「学芸員」だけでよいか
 →「はい」と考える理由
 →「いいえ」なら、どのような専門的職員の配置が必要か
Q 4. 「調査研究や学会発表」「日博協や全美の活動への参加」「他の美術館や画廊の展覧会を見る」ことなどは出張が認められているか、休暇取得か
 → 出張を申請しても認められない場合、その要因は
 → 所属館が科研費を申請できることを望むか
 → 民間財団等の研究助成金の取得について現状と要望を
Q 5. 自分が履修した学芸員資格課程の内容は、実際に現場に入ってみて十分だったと考えられるか(カリキュラムの内容、博物館実習など)
 → 学芸員資格課程の内容を改善するとしたら何を求めるか
 → (2)と関連して抜本的に変えるとしたらどうするべきと考えるか
Q 6. 文化庁の学芸員研修プログラムなどがあるが(海外派遣を含む)自分のスキルアップ、経験値を上げるうえで現状の仕組みは有効と考えるか
 → プログラムや体協の仕組みそのものの問題点はあるか
 → 自分の館の側の問題点はあるか
Q 7. 上級(専門)学芸員資格制度は必要か
 → 「必要」であればその理由
 → 「必要でない」のであればその理由
 
 実際の聞き取り調査は2023年5~8月に、部会員のうち8名が手分けして実施した。全国美術館会議の会員から数十館を選び、対面や電話、メール等で聞き取った。その結果、北海道から九州まである程度の地域バランス、国公私立の設置者別、そして施設規模の大小などを配慮しつつ、44館に所属する館員の中から回答を得ることができた。秋から年末にかけてその回答内容を7人で整理・分析し(ひとりが1問ずつ担当)、2024年1月に開いた部会会合でその内容を共有すると共に、調査結果の公開・活用方法について協議も行った。その結果の一つとして、このレポートを発表することとなった次第である。
 
 

【3】調査結果とこれからについて

 調査結果については別紙の通りであるが、以下の点についてご留意いただきたい。
 調査では忌憚のない意見を聴くために、館の公式見解を求めるような聞き取りは行っていない。あくまで聞き取りに応じた個々の館員の意見・見解であるという点はご理解いただきたい。中には匿名(館名・氏名とも)を条件に調査に応じていただけた例もあるため、レポートでも個々の館名や氏名は伏せてある。また、対象者が管理職(学芸課長など)か否かによって回答のニュアンスに差がある。44館というサンプル数も少なく、統計的分析資料とするには不十分な調査である点は否めない。しかし、ある程度現場の率直な声を拾い上げることができたのではないだろうか。
 その結果、例えば、学芸員という資格は必要だという意見が多数派である一方、それでは学芸員の専門性とは何かという点については認識や見解が一様ではないということが見られた。ある程度事前に予想できたことではあるが、やはり館の規模・職員数・設置主体の違いによって現状や課題が異なる点は大きい。さらに、質問事項によっては、たとえばQ6の研修プログラムに参加した実体験が聞き取り対象者にあるか否か、Q 7の上級(専門)学芸員資格制度(日本学術会議の提言などに盛り込まれた考え方)に事前知識や理解があるかどうか、といった前提の違いで回答に差がみられたことも事実である。
 こうした現場からの声を足掛かりとして、全国美術館会議の会員に限定せず、美術館学芸員に関する課題を広く可視化して議論を誘発していくことが重要ではないかと考えている。学芸員制度の見直しが動き始めている現在、美術館の現場にとって制度が改悪されないように現場からの発信に努めていくことが必要である。学芸員資格制度の根拠である博物館法はその名のとおり全分野の博物館を対象としているわけであり、美術館ならではの課題や現状について(必ずしも他分野の館では認識していないであろう)、美術館界の外へ向けて広げていくことも大切であろう。
 その手始めとしてこのレポートを発表する次第であり、今後、何らかの形で次なる議論や意見交換の場を作っていきたいと考えている。
 
 

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 全国美術館会議 美術館運営研究部会
 幹事 安田篤生(高知県立美術館)

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