教育普及研究部会過去の活動

日時
2024年9月3日(火) ~2024年9月4日(水)
9月3日13:30~17:10、9月4日9:40~15:05
場所
和歌山県立近代美術館
ホール、展示室

第61回教育普及研究部会会合報告

内容

(1日目)
  ・開会挨拶、部会長挨拶、幹事から趣旨説明、、会場館スタッフの紹介
  ・「なつやすみの美術館14 河野愛『こともの、と』」鑑賞(ワークシート使用)
  ・ギャラリートーク         (和歌山県立近代美術館主査学芸員 青木加苗氏)
  ・レクチャー「プラットフォームとしての展覧会ー『なつやすみの美術館』を人とのかかわり
         に位置付ける」    (青木加苗氏)   
  ・グループで意見交換、質疑応答
  ・事務連絡
(2日目)
  ・ギャラリートーク「コレクション展2024—夏 特集:旅する美術」 
                    (和歌山県立近代美術館主任学芸員 宮本久宣氏)
  ・「こども美術館部」(小学生向け鑑賞会)体験           (青木加苗氏)  
  ・レクチャー「和歌山県立近代美術館の沿革とコレクション」     (宮本久宣氏)
        「美術館に行く理由ースタンプラリーとこども美術館部」 (青木加苗氏)
        「和歌山県立近代美術館の教育普及活動」
                    (和歌山県立近代美術館教育普及課長 奥村一郎氏)
  ・意見交換、全体共有、質疑応答
  ・部会長挨拶、事務連絡

 近年、教育普及研究部会では、オンライン形式を会合にも積極的に採り入れながら部会活動を運営してきた。一方で、対面でなければ得がたい体験も多いため、2024年度第1回目の会合では、対面という形式のメリットを最大限に活かせるプログラムづくりを心がけた。
 本会合で会場となった和歌山県立近代美術館は、2011年度から、さまざまな人が美術を楽しめる展覧会シリーズ「なつやすみの美術館」を開催している。同シリーズの継続に伴って、学校教員等から成る和歌山美術館教育研究会によるワークシート開発や、和歌山大学美術館部による鑑賞ツアーの企画運営も始まり、それらは展示と一体的に練り上げられてきた。「なつやすみの美術館」は年1回の開催だが、夏期に限定されず通年で参加できる小学生向け鑑賞会「こども美術館部」も2016年度に立ち上がり、今に続いている。地域に根ざした活動は多方面から評価され、2023年度に同館は地域創造大賞(総務大臣賞)も受賞。今回の会合は、14回目の「なつやすみの美術館」として開催される「河野愛 『こともの、と』」の会期中に開催し、参加者が実地だからこそ得られる体験に照準を合わせた。
 教育普及研究部会に所属する200名を超える部会員の所属館の規模、展示企画の担当経験の有無、所属館のコレクションの有無、経験年数や興味関心は一様ではない。そのような多様なメンバーの多くが日常的に関わる普遍的かつ根源的なこと――取組を定着させて引き継ぎながら「つづける」こと、人と人、人と作品、館内と館外、展示とプログラムを「つなげる」こと、そして「コレクション(あるいは館のリソース)」を通した利用者の学びを考えること――を本会合のテーマとした。
 1日目は、「なつやすみの美術館14 河野愛 『こともの、と』」展を鑑賞しながらワークシートに取り組み、2組に分かれて展示担当者・青木加苗さんによるギャラリートークに参加。作家・河野愛さんの作品とコレクションを展示する同展の展示意図や、出品作の解説を伺った。その後ホールに移動し、主に「なつやすみの美術館」の沿革や、展示とともに発展・継続してきた研究会、美術館部の活動について、まさに展示が「プラットフォーム」として機能する現状を可視化していただいた。つづくグループワークの時間には、ワークシートに記入したことを共有し合い、質疑応答を行った。
 2日目の午前中は「コレクション展 夏/特集展示 旅する美術」の展示室内において、同展の担当者である宮本久宣さんと、小学生向けの鑑賞プログラム「こども美術館部」を担当する青木さんによる、展示解説と「こども美術館部」を、2組に分かれて入替制で体験した。普段はプログラムの企画や進行を担う立場にあるメンバーが、一参加者としてプログラムを新鮮に楽しむ姿も見られた。展示室での活動の後は、宮本さんと青木さんによるスライドレクチャーに参加。あらゆる活動の核となっている同館のコレクションの収集経緯や特色についての話の後、「こども美術館部」の展開から、活動において重視していること、工夫を凝らしたツール開発のエピソードにいたるまで、惜しみなくご教示いただいた。
 2日目午後は、奥村一郎さんから、和歌山県立近代美術館の教育普及活動を総括するレクチャーをしていただいた。参加者は、館の活動を支える屋台骨=理念や、境界を越えて「つながる」柔軟な運営体制について改めて学び、二日間に提示された具体的な事例の全体像を俯瞰する視点を得られたのではないだろうか。最後には、二日間の活動を通して考えた自館で「つづけたいこと、採り入れたいこと」について、グループ・全体で意見を共有した。なお、青木さん、宮本さん、奥村さんによる4回にわたるスライドレクチャーについては記録映像を撮り、動画共有プラットフォームVimeo上で、部会員に向けて限定公開している(10月11日~11月30日)。
 参加者からは、「改めて美術館の基本的使命に立ち返って教育活動を考えるよい機会をいただきました。[略]2日間和歌山県立近代美術館の素晴らしいコレクションを前に、所属館のコレクションを思い返していました。さぁ、明日から何をしようと、前向きな気持ちになることができました。」「来館される方たちが『自分たちの美術館』として楽しめる美術館教育のエコサイクルを長いスパンで丁寧に耕されてこられたその活動に刺激をいただきました。」「コレクションと地域の人々を大切に、美術館の基本的な仕事をきちんと丁寧に、学芸員一丸となって取り組まれているご様子に感銘を受けるとともに、自館の活動を顧みる良き機会となりました。」 等の声が聞かれた(すべて、参加者アンケートからの抜粋)。参加者の立場はさまざまであったが、何かしら自身の仕事をポジティヴに見つめ直すきっかけを得ることができたのではないだろうか。
 教育普及を担当する職員は、職場において少数派であることが多いため、館内でのじゅうぶんなOJTが難しい場合も少なくないだろう。自館の活動を相対化しながら美術館活動の本質を再確認できるような研修機会は、決して多くない。部会活動においては、美術館の新しい機能について学ぶ機会も確保しつつ、時には美術館教育の原点に立ち返るための場を意識的に設ける必要があるかもしれない。
 大人数の参加であるがゆえに、メンバーを入れ替えて2回同じ内容のトークを行う等、会場館の皆さんには円滑な運営のためにお骨折りいただいた。台風接近により、一時は開催も危ぶまれたが、急な変更や依頼にも迅速にご対応いただいた。改めて、会場館の皆様、とりわけ館内の調整やプログラム検討にもご尽力をいただいた奥村一郎さん、宮本久宣さん、青木加苗さんにお礼を申し上げます。
(報告者:教育普及研究部会幹事/三重県立美術館 鈴村麻里子)

出席者:1日目41名、2日目39名

1日目:部会員40名、オブザーバー1名
2日目:部会員38名、オブザーバー1名
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