情報・資料研究部会過去の活動一覧

日時
2017年6月16日(金)
14:00〜17:30
場所
東京富士美術館
本館会議室

第47回情報・資料研究部会会合報告

内 容

 第47回部会は、東京富士美術館における所蔵品DB等の実例見学を兼ね、同館を会場に開催された。
 はじめに会場館から、五木田聡館長の挨拶があった。同館の地域への貢献など、活動の特色のあらましについて説明された。
 続いて、越智裕二郎部会長から、5月25日に開催された第66回全国美術館会議総会の報告があった。「美術館の原則と美術館関係者の行動指針」について稀に見る真摯な議論が交わされ採択されたこと、全国美術館会議が社団法人化すること、館蔵品以外で各館にまとまった資料所蔵の調査を実施するにあたり本部会にその発声と集約を求められたことが伝えられ、後刻の情報交換会で協議することが予告された。
 また、同じく川口雅子幹事より、伝達及び協議事項は情報交換会にて実施し、発表を早める旨が伝えられた。

発表1 鑑賞活動におけるアクセスとリテラシーの充実のための情報活用

発表者:東京富士美術館 平谷美華子(学芸員副主任) 
 まず東京富士美術館が建つ地域の特性が説明された。即ち八王子市は、人口56万人、政令指定都市を除いて全国でも4番目に人口が多い市であるという。観光資源は高尾山があるものの美術館への影響はあまり見られない。八王子市は主にベッドタウンであり、市立の小中学校108校、また23大学11万人の学生を抱える学園都市でもあるという。
 従って、鑑賞活動の取り組みの初手としてまず、地域の学校・大学関係へアプローチに取り組むこととし、2010年、関係者にヒアリングを実施したところ、課題として東京富士美術館への交通手段と情報不足の2点が判明したという。
 早速送迎バスを設け、2012年に試行、2013年本格的実施に移行し、「鑑賞バス」を運行してより4年間で延べ5,000人以上の利用があるまでになった。
 アクセスに必要な情報は、主に、展覧会情報、施設情報、鑑賞活動の内容、の3種類と判り、それらの情報を学校関係に浸透させていった。鑑賞活動の中身も、初めは学芸員主導の内容だったものが、学芸員の人手不足を補うように次第に教員や学生が主体的に美術館を活用できるよう発展させていったという。
 大学生向けの情報として英語情報への高いニーズに応えることが必要と判った。また、学生の興味やアートへの関心を導くため、最新の話題やトピックを切り口にしたり、アートそのものの有用性について考えさせたりと、レクチャーの工夫を重ねた。また小中学生向けには、教員や学生によるギャラリートークや出前授業を実施するようになった。
 これらの活動で、大学生がQRコードの解説をくだいて説明するなど、小中学生の団体鑑賞を担当する機会を設けると、大学生自身が誰かの役に立つという自覚を持つことで、彼らのさらなる意欲を引き出すことができたと報告された。
 アクセスとは、美術館と人々がどうつながるかである。地域の特性を把握し、交通手段の整備と積極的な情報提供を果たして、利用者が同館に接続しやすい環境を整えたことで確実にアクセスのしやすさが確保されたことが判った。そしてさらに、主体的、能動的に美術館を活用する能力、すなわち「リテラシー」の充実に、情報の提供や活用が不可欠であることが今回の報告から理解された。
 平谷氏は、今後のさらなる鑑賞活動の充実に向けた課題と展望として、1.英語情報の充実 2.作品作家関連情報の充実 3.既存ファシリティ活用活発化への整備 4.視覚情報以外の聴覚・触覚情報等の充実 5.鑑賞活動自体のアーカイブ化6.コレクションの整理と情報公開 7.地域との連携の強化(win-winの関係構築)を挙げた。
 発表後、作品の解説は鑑賞活動において、QRコードと紙媒体の両方の必要性があるということ、教員が研究授業として東京富士美術館で主体的に鑑賞活動をしていること、写真作品2万点のコレクション整理における現物と情報の照合精査に困難を伴うことなどが、活発な質疑応答の中で言及された。

発表2 ICタグによる収蔵品及び蔵書管理システムの運用

発表者:東京富士美術館 鴨木年泰(学芸課係長)
 短い休憩時間に続いて、発表者が登壇。PC画面のプロジェクションでまず、ホームページにおける収蔵品のデータベース(以後DBと略す)活用の実際が紹介された。
 収蔵品DBから書き出された作品情報により、一作品について、作品図版、キャプション情報、作品解説、展示中か否か、収蔵までの来歴・展示歴(欧文)、収蔵後の出品歴、参考文献など。図版は巾950pixel、作品によってはGoogle Arts & Cultureで同じ作品の高画質画像が閲覧できる。
 また、展示室のQRコードはスマートフォンのサイトに飛ぶと、音声ガイドを聞くことができる。映像ガイドもあり、ギャラリートークの映像が流れる。映像ガイドについてはコンテンツ作成のハードルをさげるため、学芸員が解説する自分を自撮りしたムービーなどをアップできる簡便なシステムを実装したものの、更なるコンテンツ充実が今後の課題であるという。
 貸出した収蔵品情報も充実している。貸出中、貸出予定が判るほか、当該作品がいつ、どこの何という展覧会に貸し出されたか、貸出が終了した収蔵品情報の蓄積は開館当初の1983年以来、過去33年分のすべてが収蔵品DB内に取り込まれている。このDB情報によってホームページの充実が図られていることがよく判った。
 続いて、収蔵品DB自身について、基本構造や貸出情報登録、ホームページへの作品情報アップロード、登録データ修正のフローや画像管理についてなどが具体例を示しながら順次説明された。 
 DBは当初、一担当であった鴨木氏によってFilemakerで作成されて出発したという。それを核に機能が追加され、ICタグによる収蔵品管理システムが導入されるにあたり大きく充実したという。作品情報のテーブルに、収蔵アドレス・棚番号情報が入っている。ホームページに載せている解説情報も、載せない過去の解説情報も、キャプション欄情報もある。貸出情報は、過去の館内外の展示歴にその都度確認した保険評価額までが時系列に一覧できる。収蔵時点での受入における手続きの履歴も収蔵品DB内に情報が一元化されているという。
 展覧会情報は、種別に企画協力、常設、貸出など。出版物掲載についても記録されている。出品管理は、出品管理テーブルのレコードに展覧会IDと収蔵品の所蔵番号を記入することで、書き出せばすぐさまWebへ掲載が可能になる。収蔵品貸出の可不可は学芸員の稟議を経て書類ベースで決裁されるが、担当者により貸出稟議書類を随時入力してWebへ公開できているという。
 ホームページへのアップロードは、Web管理会社経由である。DB更新の依頼をWeb上の管理ツールから掛けると、Web管理会社から書き換えとアップロードが成される。DB上の収蔵品登録データの修正は、情報変更フォームをプリントアウトし、朱筆修正を記入し、全学芸員および館長まで回覧して裁下後、改訂更新を担当者が入力する。紙媒体の更新記録を残す一方で、DBの備考欄にデータ修正の記録、すなわち作品情報のヒストリーが記入される。
 画像管理においては、収蔵品の原寸スキャニングによる数万pixel四方の超高画質画像が139件、カラーマネジメント高画質撮影の7〜9000pixel程度の画像が161件、ポジスキャンやデジタルカメラによる通常撮影の5〜6000pixel程度の画像が3259件あり、画像ソース別に原板画像としてフォルダ管理している。一方、DB上でリンク表示が適う画像は、6237枚。参照用の画像はDB表示が重すぎないように2048pixelを最大巾としている。一部画像の無い作品もあり、また企画展時、他館から借用の画像の管理は含めていない。リンク表示用の画像は、ポジフィルムからも、プリントからもスキャニングがあるほか、スナップ写真や、作品そのものではなく付随情報の画像も入っている。
 作品画像で再撮された画像は、枝番号をファイル名に付与して管理している。
 収蔵品の所蔵番号は、すべてのジャンルを超えて、通し番号で管理。通し番号に、分類番号が付け加えられる。分類番号は、素材・分野の記号、国名記号などで構成される。
 かなり早足ではあったが、収蔵品DBが如何に充実した情報源となっているかが次々と繰り出される画面で説明された。  

見学、部会の伝達、連絡、協議事項

 つづいて、現場の見学に移動。
 発表途中には、戸外の雷鳴と豪雨(後に雹と判明)がすさまじい時間帯があったが、閉架書庫及び収蔵庫での見学に向けて会議室を離れる頃は、きらきらと陽が輝く庭を眺めて移動できた。
 まず、閉架書庫に案内された。
 書籍は、キーワードで検索。当該書の表紙、目次のスキャン画像を検索可能なPDFにしてある。目次でキーワードをクリックしてさらなる情報を求めることができるのには驚く。まだスキャン画像が網羅的に入れていないということではあったが。   同館には司書はおらず、敢えて書庫は、NDC分類に因らない配架であるという。h38cmまでの大型本をL棚、ほかにM棚、S棚とサイズで配架分け。
一方、「展覧会カタログ」「収蔵品目録(他館)」「自館刊行物」「ストック分」などで棚の分類が成されているほか「フリーラック」がある。「フリーラック」は、貸出処理後、職員個人用や企画展毎の準備用など、お気に入り本のためのキープ棚なのだそうだ。なぜなら、事務所デスク周りのスペースが限られることから、必要書をまとめて置ける場所の必要性が感じられたためという。
 次に、新館収蔵庫を見学させてもらった。新館には二つの収蔵庫がある。一つは、20℃、50%以下に温湿度設定された写真作品専用庫。写真作品は本館にも収蔵庫があるという。もう一つは、西洋美術用。ICタグ読み取りをハンディターミナルで行うため、庫内は無線LANの環境が整えられていた。
 例えば、「新館第1収蔵庫・絵画ラック大 - ラックA - 表面」をS1B-A-1など、すべての棚に用途目的別棚番号を付す。 シリコン製のICタグにハンディターミナルをかざすと、読み取った収蔵品の所蔵番号がデータベースに照会される。搬出、搬入、移動の別を記録でき、収蔵庫内に同一作品の定位置を設けなくても良く、蔵置場所が変わってもDBに反映されるのですぐにどこに何があるかが特定できる。作品の移動の記録は、それが移動だけなのか、貸出なのか、履歴が記録される。収蔵庫から出されて展示室に展示されている場合、どこの展示室か、どこの壁に展示されたかまでは追跡できてはいない。連続読み込みは可能だが、読み取りの強度調節を施さないと他の作品を読み込んでしまう場合がある。ICタグが金属と触れた状態であると読み込めないということも、読み込ませる作業における留意点であるという。
 ICタグによる収蔵品管理の実例を目の当たりにして、多くの情報が参考になった。

●部会の伝達、連絡、協議事項など
 最後に、情報交換会が同館内カフェレストラン・セーヌに場所を移して行われた。
 まず、カルコン日米美術対話委員会(CULCON-Arts Dialogue Committee)から示された「バイリンガル日本美術ウェブサイト(案)」について、当部会から全美加盟館への情報提供の呼びかけ及び情報連絡窓口になるよう全美からの要請があり、それを受けて今後担当の栗原氏との打ち合わせを持ち、実施の具体案を調整・協議することが確認された。
 次に、国立国際美術館長で、全美副会長でもある国立美術館データベース・ワーキング座長山梨俊夫氏より、「アーカイブの所在調査に関する共同作業の提案」があり、その実施とりまとめが当部会に要請された件について、越智部会長から、具体的な実施策として、アンケートを取って整理することが求められていると説明があった。何を調査するのか、全国各館でまとまった資料をどう捉えるかは認識に温度差があると想定されるため、どう呼びかけることが望ましいかについて活発な議論が成された。段階的な実施として、まず今年度内にアンケートを発信できるよう文案をとりまとめることを念頭に、スケジュールを策定することとなった。
 最後に、「平成29年度各研究部活動交付金交付申請書」を鴨木年泰幹事名で、全美の会長宛て提出した内容について、幹事川口雅子氏より部会員へ説明があった。活動計画においては、項目に挙げられた「HPにおける所蔵作品情報の発信に関するアンケート」と「美術館所蔵アーカイブ資料に関する情報共有化に向けての検討」は一本にまとめて、今年度の取り組みとすることを決定した。
(報告者:横浜美術館 八柳サエ)

参加者:15名

越智裕二郎(西宮市大谷記念美術館)部会長
鴨木年泰(東京富士美術館)幹事
川口雅子(国立西洋美術館)幹事
八柳サエ(横浜美術館)
端山聡子(横浜美術館)
谷口英理(国立新美術館)
住広昭子(東京国立博物館)
清原佐知子(大阪新美術館建設準備室)
小林真由美(松岡美術館)
オブザーバー
大野方子(諸橋近代美術館)
森川もなみ(山梨県立美術館)
黒澤美子(ブリヂストン美術館)
竹内俊貴(九州国立博物館)
日比谷安希子(横浜市民ギャラリーあざみ野)
発表者:平谷美華子(東京富士美術館)
小林豊子(全国美術館会議 事務局)
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