情報・資料研究部会過去の活動一覧

日時
2017年2月15日(水)
14:00〜17:00
場所
横浜美術館
横浜美術館8Fスクールスペース、横浜美術館美術情報センター

第46回情報・資料研究部会会合報告

内 容

 今回は美術情報・資料分野における事例見学会を兼ねて、横浜美術館にて開催された。
 はじめに横浜美術館副館長 柏木智雄氏より挨拶をいただいた。
 横浜美術館は1989年開館。8階のスクールスペースは元々展望フロアがあったが、現在ではボランティア活動のスペースとなっている。開館以来、「みる・つくる・まなぶ」の三つの機能にそれぞれ学芸員や司書、ワークショップなどの専門員をおき、それぞれの事業が活性化できるように行っている。美術情報センターの書庫は、書籍と映像など約12万冊ある。(主旨)
 次に、情報・資料研究部会部会長の越智裕二郎氏の開会挨拶を挟んで、部会の伝達事項及び連絡と協議事項は、以下のとおり。
1、2016年6月24日の研究集会のテープ起こしと、同年1月20日の美術館の情報公開をめぐる自由
 討論会テープ起こし作業についての現状(鴨木幹事より)
  研究集会発表時の録音記録から作成したテープ起こしテキストについて、当日の音声データを
 はじめ、各発表者の音声、文章ファイルデータ一覧の表されたコピーが配布された。1月末で校
 正、編集を終わらせるよう締め切りを設け、年度内には全美ホームページの会員館認証ページで
 限定公開が出来るよう進めている。
2、文化庁著作権分化会審議経過について(川口幹事より)
  著作物のアーカイブ化の促進にかかる著作権
 の審議の状況と、文化庁著作権分化会審議経過
 に関する資料が配布された。文部科学省に設置
 された文化審議会のうち、著作権制度に関する
 重要事項の調査審議を行う著作権分科会では、
 美術館に関係のある著作権のことについて審議
 されている。そのうち法制・基本問題小委員会
 において、これまで著作物のアーカイブ化の促
 進のために、「観覧者のための電子端末搭載」
 「サムネイル画像のインターネット送信」が検
 討されてきた。審議会の議論を経て公になる見
 通しである。一方で、米国著作権法の107条「フェア・ユース」を参照した「柔軟で一般的な権
 利制限規定」の導入なども同時に検討されており、今後の著作権法改正については部会としても
 注視していきたい。
3、資料の所在マッピングの取り組みと、カルコンからの依頼について(越智部会長より)
  それぞれの美術館には館蔵品に関連した、あるいは地域の作家関連の一括資料が存在する。そ
 の所在をマッピングしていきたいと独立行政法人国立美術館機構は考えているそうだ。ついては
 その所在マッピングDBは国が責任を持つので、その所在調査について、情報収集に全国美術館
 会議に協力いただきたく、その窓口については情報・資料研究部会にお願いしたい旨、山梨副会
 長より企画会議の席上、依頼があった。
  独立行政法人国立文化財機構本部事務局長の栗原祐司氏と京都国立博物館リサーチ・フェロー
 メリッサ・リンネ女史が来館、カルコン(日米文化教育交流会議)の依頼として、美術館情報の
 入力依頼があった。その入力のためのテンプレートは用意される予定。
  近年、日本からの美術館・博物館の情報発信は、東アジアの他地域に較べて減少の一途をたど
 っており、その情報発信の複言語化の支援が背景にあるようだ。
  ・全国美術館会議の法人化について、先の理事会で検討がはじまった。一般社団法人になるの
   か、公益財団になるのか、あるいはしないのか、そもそも全国美術館会議は何をするところ
   なのか、それが問われることになるだろう。
 その後、横浜美術館 端山聡子氏と八柳サエ氏による発表が行われた。

発表1 資源の蓄積と公開について―教育普及的視点から―

発表者:横浜美術館 端山聡子 
 平塚市美術館と社会教育課で計25年間勤務し、2013年9月より横浜美術館にうつり教育プロジェクトチームリーダーとなった端山氏の講演。本講演では教育普及の立場から、資源の整理や作品情報を検討している。
1、平塚市美術館時代の端山氏の取り組みについて
  資料整理や作家作品情報の公開を、以下のように行ってきた。
  ・洋画家 原精一(1908-1986) 資料の整理と公開、展覧会、報告書
   ・・・同館の所蔵作家である原精一による約2万点の資料の整理を行った。
  ・洋画家 大貫松三(1905-1982)の調査と展覧会・報告書
   ・・・戦前、帝展・文展において活躍した画家で、原精一資料整理から発掘した画家。
  ・平塚市内の屋外彫刻調査とデータベース作成、活用、保存活動を行った。
   ・・・広報ひらつかの特集ページで市民に紹介された。
  ・社会教育課(中央公民館)での地域人物史講座(2種類)の成果として
   ・・・地域人物史冊子1冊と、聞き書き(オーラルヒストリー)冊子2冊を発行。
   ・・・平塚市中央公民館にて、おこなった人物
     史講座では、学校を作ったり、起業す
     るなど活躍した市民の資料を調査して
     評伝として記述し(1冊)、オーラル
     ヒストリーでは庶民の生活から地域を
     捉え(2冊)現存する人の話をまとめ
     た。各講座とも人物史の専門家に依頼
     して学習した。オーラルヒストリーの
     グループメンバーは平塚市博物館で聞
     き書きのグループとして民俗部門でも
     活動している。
2、知のインフラ整備(美術館) 
  端山氏は資料の整理・顕在化のことを「知のインフラ整備」と称している。
 (1) ミュージアムは蓄積(ストック)を作って活用し、展示や教育の活動を通してさらにスト
   ックを作るという循環が働く施設 
   ・・・ストックとは収蔵作品、デジタルデータほか、様々な情報の知の蓄積のこと。
     学習者の「享受する楽しみ」と「構築する楽しみ」
   ・・・展覧会を観覧するという享受型の楽しみ方と、作業や学習を重ねることで、ある時点で
     理解が開けるという構築型の楽しみがあるが、構築型の楽しみを伝える教育活動が少な
     い。
 (2) 横浜市文化振興財団の総務グループ 相澤勝さん
   ・・・横浜美術館のコレクション検索ページには、「データの利用する際は原作者のクレジッ
     トを表示してください」下部に 「ヨコハマ・アート・LOD」のリンクが掲載される。
     (LODとはLinked Open Dataを指す)このリンクをクリックするとウェブ上でダウン
     ロードが可能な横浜美術館をはじめ、市民ギャラリーや大佛次郎記念館などのイベント
     データ、場所データ、所蔵品データ、作家データのオープンデータのリンクにたどり着
     く。(詳細
     ウェブ上では最新の状態であるが、デジタルデータには画像はついていない。
3、ボランティア活動のインフラストラクチャーとして
 (1) 所蔵作品カードの制作
   ・・・収蔵作品の全体像を把握するために、教育プロジェ
     クトの学芸員とアルバイトとボランティアで所蔵品
     の写真つき作品カードを作成した。所蔵品目録に掲
     載されている作品画像を切り貼りした。その結果、
     2015年1~3月の16日間で約1万1000点のカード作
     成と作家別分類(50音順)、収納まで完成した。
 (2) 作家・作品情報の収集(現在継続中)
   ・・・作家・作品情報キャビネットに関連文献をコピーし
     たり、ボランティアのフィールドワークなどの調査
     成果を収納し、教育活動のさまざまな機会に活用し
     ている。
4、ボランティアによるテーマ別グループ学習活動
 (1) ヨコハマ・アート・マップチーム 約18名
   ・・・2015年4月より現在も継続中。月に2回程度行われている。現在グループ内公開でヨコ
     ハマ・アート・マップをウェブ上で制作中である。
     昨年コレクション展の一部として展示した「描かれた横浜」では、制作した所蔵作品カ
     ードから横浜に関する作品を選び出した。展示関連プログラムとしてボランティアによ
     る「美術で街歩き―描かれた横浜をたずねて」を実施。所蔵作品に描かれた当時の風景
     が横浜のどの場所を描いたのかを地図に印すため、実際にボランティアと外に出てフィ
     ールドワークを行った。フィールドワークによって、ボランティアならではの所蔵作品
     の見方が生まれた。
      Ex. 中西利雄《横浜風景》、国領經郎《山手風景》、武林敬吉《はしけ》など
 (2) 描かれた物語チーム 約10名
    西洋・東洋・日本の区分で作品カードを選出、作品とその背景にある古今東西の物語を現
   在も調査中。
    Ex.下村観山《小倉山》、鏑木清方《遊女》の通夜物語など。
 (3) 自主グループの丹下健三チーム 10名程度
5、展覧会で教育プロジェクト職員などが蓄積した資源を活用
 (1) 展示「描かれた横浜」で作品カードを活用した。
    2016年コレクション展第2期の一部として実施。展示プラン作成にはカードを活用し、フ
   ィールドワークからも新発見があった。調べた資料は作家・作品情報キャビネットに格納
   し、共有した。
  ※展示室内で配布する地図を作成、季刊誌『横濱』で55ページの特集が組まれた。
 (2) コレクション展の学芸員のギャラリートークで作家・作品情報キャビネットを活用
    毎回作品の文献資料を収集し、ないしはコピーしファイルキャビネットの中に入れて共有
    を図る。所蔵品に関する勉強を一人のものとせず、ボランティア間や職員とも共有し、日
    常的にすぐアクセスできる資料をためていく。
6、学校連携プログラムでの知的インフラの活用
  「横浜美術館コレクションを活用した授業のための中学校・美術館合同研究会」
  中学校の美術教諭と協働で1年かけて4つの授業案を作成した。作家・作品情報キャビネット
 も活用した。授業案は横浜美術館ウェブサイトで公開中

 端山氏は教育普及にとって、ワークショップを行う以上に「所蔵品の情報公開が重要」と考えている。学芸員や専門家だけではなく、また名品だけでなく、できるだけすべての所蔵作品とその情報をウェブで公開することが重要。人々の文化・学習活動のインフラとなる資源の顕在化は、人々の活動を活発化させることに長期的に貢献する。

発表2 美術資料センターのこれまでと現在、これから

発表者:横浜美術館 八柳サエ 
 横浜美術館は開館以来、「みる・つくる・まなぶ」を掲げてきた。美術情報センターはそのうちの「まなぶ」にウエイトを占めており、美術に関連した様々な情報を集め、発信する拠点であることを目指して出発した。具体的に以下において、市民・研究者に美術の情報を提供してきたが、開館当初と異なり、情報伝達を取り巻く環境の変化に照らして、開館30周年を控える現在、美術情報センターは美術図書室機能に軸足を置いている。
1、図書資料 (美術図書室)
 ・・・主に国内外の美術図書や雑誌、展覧会カタロ
   グ、紀要などを体系的に収集。
   現在、蔵書は11万冊以上。
2、コンピューター(美術情報システム)
 ・・・館内に設置されたPC端末によって、美術情
   報を検索する。プリントアウトも出来る。
   ⇒利用者が検索できるPC端末は、美術図書室
    内に移行。
3、映像メディア(美術情報ギャラリー)
 ・・・映像による美術情報の提供を行う。
   ex.名画映像レファレンス、ビデオライブラリーの2つのシステム
   ⇒美術情報ギャラリーはショップとカフェに改築され(2005年公開)、視聴覚資料提供のサ
    ービスは、美術図書室内のコーナーに移された。
4、フィルム&ビデオアーカイブ
 ・・・現在は、美術図書室内視聴覚コーナーで、約580件(VHS)の視聴ができるサービスを提
   供。他に実験映画(ルミエール、シュールレアリスム、デュシャンや日本の映画など)を収
   蔵しており、上映会等で公開している。

○美術情報センターの課題
1、専門性の深化
  美術情報センター(美術図書室)は一般に無料公開しているが、利用は、他館学芸員をはじ
 め美術関係者や研究者など専門家が多い。また美術図書室は、内部学芸員の資料室でもある。
 ゆえに、美術の研究に資する資料の充実を図らねばならない。
  購入費の確保に努める一方、蔵書データベースを充実させ、情報発信の強化を図っていくこ
 とも重要である。その観点から、従来成されて来なかった蔵書情報の充実化(逐次刊行物各号
 入力、保管場所の開架・閉架の別の明確化など)をできることから着手している。
 ※当館蔵書データベースは現在「情報館」(ブレインテック)を採用。
2、開放性の開拓
  美術情報センターの認知度を上げ、専門家以
 外にも、美術情報センター(美術図書室)を活
 用してもらうことが課題である。そのために、
 他館美術図書室や他図書館とのネットワークを
 築いて情報を収集し、自館の問題点改善に活か
 すことは勿論、内部利用においても、ボランテ
 ィア活動で資料を活用できる仕組みを整えたほ
 か、建物の構造上、その所在の判りにくさを解
 消すべく、協賛を得て展示室から入る扉への導
 入通路の刷新や、屋外から入る専用エントラン
 スに新たな看板を設置した。
  また、資料展示や企画展関連資料コーナーを設けて広報したり、施設や蔵書に関する情報を発
 信したりする中で、情報センターの存在意義が広まるよう努めている。外部との連携も蔵書のポ
 テンシャルを知らしめる好機となり得ると考え、2017年度は、司書資格取得の講座を持つ市内
 大学(鶴見大学)との連携事業を検討中。

 発表終了後、横浜美術館 美術情報センターの閉
架式書庫及び閲覧室などの見学を行った。
 蔵書データベースの検索端末に関しては見学が
出来なかったものの、閲覧室をはじめ、閉架式書
庫(3F、2F、M4F)と資料整理の現状を見学し
た。各階ごとに、作家ファイル、他美術館のチラ
シストック、和雑誌・洋雑誌、一部新聞、マグリ
ット文庫(通称)、紀要や洋書、所蔵品目録、自
館の企画展カタログ、国内外の展覧会カタログ、
美術館ニュースなどを整理している。

○今後の企画準備に関する協議並びに情報交換
・次回第47回部会は、東京富士美術館(八王子)で6月16日(金)に開催予定。今回と同様に事
 例見学会を兼ねている。
                           (報告者:松岡美術館 小林真由美)

参加者:10名

越智裕二郎(西宮市大谷記念美術館)部会長
鴨木年泰(東京富士美術館)幹事
川口雅子(国立西洋美術館)幹事
八柳サエ(横浜美術館)
端山聡子(横浜美術館)
住広昭子(東京国立博物館)
小林真由美(松岡美術館)
オブザーバー
一瀬あゆみ(三菱一号館美術館)
木内真由美(長野県信濃美術館)
小林豊子(全国美術館会議事務局)
Copyright © 2011 The Japanese Council of Art Museums All Rights Reserved.